離婚後300日問題とDNA鑑定


調停新受総数(司法統計より)2012年(平成24年)
認知1,201件 嫡出否認398件 親子関係不存在1,365件

300日問題とDNA鑑定

 離婚後300日問題とは、民法772条で離婚後300日以内に生まれた子どもは、元夫の子どもと推定すると規定されているため、 本当の父が元夫ではないケースにおいて、元夫の子どもと推定されることを避けるために、子どもの出生や戸籍上の手続きを行わず無戸籍になるなどを指します。

 民法772条
1.妻が婚姻中に妊娠した子どもは、夫の子どもと推定する。
2.「婚姻届を提出した日から200日を経過後(200日は含まない)」 または「婚姻の解消や取消し(離婚届の提出日など)の日から300日以内(300日を含む)」に生まれたこどもは、婚姻中に妊娠したものと推定する。
と、このように規定されています。

 簡単に説明すると、
1.結婚している夫婦が妊娠した場合、夫の子どもと推定する。
2.婚姻届を出してから200日(約6カ月20日)を過ぎてから子どもが生まれた場合と、離婚届を出してから300日(約10カ月)以内に子どもが生まれた場合については、夫の子どもと推定する。
と、書かれています。

 なぜ、この規定が問題になるのかと言うと、これから離婚をしようという夫婦は、すでに夫婦関係は崩壊し、実際、夫には別の女性が、妻には別の男性がいるというケースも少なくないでしょう。

 そして、正式に離婚届を提出する段階で、妻が別の男性の子どもを妊娠しているような場合、一般的に妊娠期間は約280日であることから、離婚届の提出後300日以内にその子どもは生まれてくることになります。

   このような場合、たとえ別の男性が子どもの本当の父親であったとしても、原則として元夫が子どもの父親であると扱われることになります。

 そうなると元夫には養育義務、子どもが相続人になるなど、将来的な別の問題も生じることになります。

 しかし、民法772条はあくまでも「推定する」と言っているのであって、この推定を覆すことや推定できない状況であれば、元夫と子どもに親子関係が存在しないことを裁判によって確定させることができる可能性があります。

1.嫡出否認の訴え

 嫡出とは婚姻関係にある夫婦から生まれることを言い、婚姻関係にある夫婦から生まれた子どもを嫡出子、婚姻関係にない男女から生まれた子どもを非嫡出子と言います。

 嫡出否認とは文字どおり「嫡出ではない(夫婦間に生まれた子どもではない)」と裁判に訴えることで、「夫は子どもの出生を知ってから1年以内であれば、子どもが嫡出であることを否認することができる」と 民法774条・民法775条・民法777条に規定されています。

 これは、夫のみに許されている権利ですが、夫と子どもの関係が民法772条で言う「①婚姻中に生まれた子どもであること」 「②結婚してから200日を経過してから生まれた子どもか、離婚してから300日以内に生まれた子どもであること」という推定される条件に該当する場合に限り、 「③子どもが生まれたことを知ってから1年以内に訴えなければならない」とされています。

 このケースでは、夫と子どもに親子関係が存在しないというDNA鑑定の結果が重要な証拠資料として扱われることが多いため、 DNA鑑定は非常に有効な手段です。

 現実には、夫の側から見れば、妻が別の男性の子どもを妊娠・出産したわけですし、妻の側から見れば、夫の子どもとして戸籍に載ることを避けたいわけです。

 そのため、夫・妻の双方に弁護士がついていることが多く、DNA鑑定を受ける際に双方が同席して感情的になることを避けるため、 「夫」と「妻+子ども」は別の日時にDNAのサンプル採取を行うことが多いのも事実です。

 この嫡出否認の訴えは、子どもが生まれてから1年以内というタイムリミットがあるため、夫は「本当に自分の子どもなのだろうか?」と悩んでいるうちに1年が過ぎてしまったような場合、 嫡出否認の訴えを起こすことはできなくなります。

2.親子関係不存在確認の訴え

 嫡出否認の訴えは、夫のみに許されている権利でしたが、親子関係不存在確認の訴えは、夫だけではなく、妻と子どもの他、相続関係に影響を及ぼす関係者も訴えることができます。

 また、嫡出否認の訴えのような1年以内というタイムリミットはなく、いつでも訴えることができます。
 但し、民法772条の「推定する」という条件については、「その推定が及ばない」必要があります。

 具体的には妻が妊娠した時期に、夫が服役中であったとか海外出張中であった場合や、完全な別居状態で客観的にそれが証明できるような場合など、妻が夫の子どもを妊娠することが できないことが明白である場合のことを「推定が及ばない」とみなします。

 この他、子どもが何らかの事情で、本当の父や母ではない人の子どもとして戸籍に入っているような場合も、親子関係不存在確認の訴えでその事実を認めてもらうことになります。

 この真実とは異なる内容で戸籍に入っているようなケースは、戦時中や戦後間もない混乱期の影響が今なお残されており、現在60~70歳の方の中には、 本当の父や母の戸籍に入っていないという問題を抱えている方も少なからず存在します。

 親子関係不存在確認請求事件

 この親子関係不存在確認の訴えについては、「親子関係不存在確認請求事件(最高裁平成26年7月17日第一小法廷判決)」が社会の注目を浴びました。

この事件の概要は・・。
① ある夫婦の関係が9年経つ頃から妻が浮気を始めます。
② そして、妻は妊娠します。しかし、子の父は浮気相手だと思い、妊娠を夫に話しませんでした。
③ 出産後、子の父は2,3回しか合ったことのない浮気相手だと夫に説明します。
(後に行われた子と浮気相手のDNA鑑定で生物学的父子関係が成立・肯定されています。)
④ その事実を知らされた夫は「自分の子」として育てる!と決心しました。
⑤ しかし、破綻した夫婦関係は長くは続かず、離婚することになりました。
⑥ 妻は子を連れて家を出て、子の生物学的な父と暮らし始めました。
⑦ そして、夫との離婚成立後、しばらくの日を経て、妻は子の生物学的な父と再婚しました。

 この子が前夫の子でないことは明らかですが、772条第1項に基づき、その子の戸籍上の父は前夫となります。

 この状況のままでは、子が成長して自分の戸籍謄本を取得した時に、血縁上の関係のない者が父として記載されていると気が付きます。

 妻や再婚相手が、そんな戸籍の記載を変更して欲しいと願うことは自然だと思えます。

 そこで、妻が子の代理として、元夫と子の戸籍上の親子関係の取り消しを求めて訴訟を起こしたのです。

 一方、元夫からすれば、浮気した妻の子を「自分の子」として育てる「父親になる」と決意をし、短い期間でも共に過ごしたその子との思い出の日々が、 跡形もなく完璧に「そんな事実は無かった事」とされるのは耐え難い苦しみとなることも理解できます。

 この裁判は、曖昧な「推定」を優先するのか、「DNA鑑定」と言う生物学的血縁を優先するのか、 どちらが本当に子の利益となるのかという判断を司法に求めた裁判でした。

 特に最高裁の確定判決は、今後、同様の裁判に対して決定的な影響を与えます。 「この事件のケースだけに当てはまる」という安直な判断は許されないのです。

 そして、この裁判の経過は、1審・2審は、妻側が勝訴しましたが、最高裁では前夫側の主張を認め逆転勝訴となりました。

 つまり、この裁判は、772条1項の「推定」が「DNA鑑定」に勝った、と言う結論になりました。

 法律的には、前夫が嫡出否認の訴えができる1年のタイムリミットを過ぎてからでも、親子関係不存在確認の訴えが認められるかどうかという裁判でしたが、 最高裁判所は妻の主張を認めず、たとえ子どもの生物学的な父親であったとしても、子どもの法律的な父は前夫であるという判決を示したのです。

 この裁判の判決文を読むと、5人の裁判官のうち2人が反対意見を示した僅差での判決であったことに気が付きます。

(補足)櫻井龍子さん 元労働省官僚
(補足)山浦善樹さん 筑波大学法科大学院教授
(反対)金築誠志さん 日本法律家協会会長
(反対)白木 勇さん 最高裁判所判事

 そして、4人の裁判官の補足意見、反対意見を読むと、どの裁判官の意見も本当に深々く、厳しい裁判だっと思料させられました。

こちら→ 最高裁判所判決文

 この事例は、仮に夫が訴えを起こした場合であっても結果は同じであったと考えられます。(子の生物学的な父が浮気相手だった事を後で知り、夫が起訴を起こした場合)

 つまり、結婚している夫婦に子どもが生まれ、その子の父が妻の浮気相手であった場合、その事実を知っていようがいまいが、 夫はDNA親子鑑定で親子関係が存在しないことを証明し、1年以内に嫡出否認の訴えを起こさない限り、 親子関係不存在確認の訴えでは、裁判で認めてもらうことは極めて難しい、ということが改めて確認されたのです。

こちら→ 法令データ提供システム イーガブ

 最高裁判所判決文より抜粋
 夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、夫と妻が既に離婚して別居し、子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても、 子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって、同条による摘出の推定が及ばなくなるものとはいえず、 親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないもの解するのが相当である。


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